2026年3月8日、対面講座「私たちはAIとうまく付き合えるのか?」を開催しました。ご参加いただいたみなさま、そして会場や運営面でご協力くださったみなさまに、心より感謝申し上げます。
今回は、学校の先生、会社員、学生、アーティストなど、異なる立場の8名にご参加いただきました。会場では机を半円に配置し講師も含めてゆるやかな円になり、お菓子やコーヒーを囲みながら、ビスケットと生成AIの体験、そしてディスカッションを行いました。一方的に教わる場ではなく、それぞれの体験や考えを持ち寄り一緒に考える場になったように思います。

当日の流れ
1)講座の目的共有・自己紹介
2)ビスケットでプログラミング体験
3)ディスカッション1
4)ビスケットでゲームづくり体験
5)つくったプログラムを言葉で説明
6)生成AIに指示を出してみよう
7)ディスカッション2
ビスケット(Viscuit)は、2003年に原田博士が開発した、言葉や数値を使わずに絵を配置することでプログラミングができるツールです。シンプルな仕組みでありながら、組み合わせ次第で多様な表現や動きをつくることができます。
ビスケットの詳細はこちら
講座で考えた問い
講座の途中、講師の原田博士から、今回の体験の背景にあるお話がありました。AIの進化が加速する時代に、何が変わり、何が変わらないのか。便利さが増していく中で、「自分でつくること」にはどんな意味があるのか。今回の講座は、そうしたことを頭だけで理解するのではなく、ビスケットと生成AIの両方を体験しながら考えてみる場として位置づけられていました。
ビスケットでプログラミング体験
ビスケットでの模様づくり体験では、同じツールを使っていても、一人ひとりの着目点やこだわりが作品にはっきり表れていたのが印象的でした。動きの重なりに惹かれる人がいたり、背景色をあえて変えない人がいたりと、つくる過程にもそれぞれの個性が表れていました。
また、作品を見合ったり、休憩中に話したりする中で、その人がどこに惹かれているのか、何を面白いと思っているのかが少しずつ見えてくることもありました。対面だからこそ、作品だけでなく、反応ややりとりも含めて、やわらかく場が育っていく感覚がありました。
体験後のディスカッションでは、「同じものを作れない、その面白さ」「ランダムさと整列には違う美しさがある」といった意見が出ました。また、「表現は自分でつくるもの、知識・技能は教わるもの」という言葉も出ました。正解をまねるのではなく、試しながら自分なりの形を探していくことの大切さや面白さが共有されていました。
また、ディスカッションを通じて、原田博士から、ビスケットは人の「こうしたい」という思いを最大化させる「ものすごい増幅器」だ、という話もありました。私もビスケットでプログラムをつくることがありますが、ちょっとしたひらめきをビスケットですぐに可視化することで、「もっとこうしたい」「こうなったら面白い」と思いつくことがあります。こうした一つひとつのひらめきや思いつきが、作品の「自分のもの感」を高めてくれるのだと気づきました。


ビスケットと生成AIでゲームをつくってみて
ゲーム制作体験では、まず、自分のこだわりを存分に詰め込んだビスケット作品をつくってもらいました。その後、つくったプログラムを言葉で説明し、その言葉を生成AIに渡して、パソコンで遊べるゲームをつくってもらいました。
生成AIを使った体験では、便利さを感じると同時に、やりたいことを言葉にしたり、順序立てて伝えたりすることの難しさと面白さの両方があったようです。また、生成AIで作られたゲームを見て、自分が思ったものと異なる点が見つかると、自分が与えたプロンプトの「足りない点」に着目し、追加のプロンプトを入力する、そういった様子も見られました。
ビスケット、そして生成AI、それぞれの参加者の作品がそろい、他の人の作品で遊んだりする様子も見られました。自分の作品を「遊んでもらう」感覚や、その場で感想を受け取る感覚を得ていただいたことも、とても豊かな経験だったように思います。


ディスカッションで深まったこと
2回目のディスカッションでは、ビスケットと生成AIの両方を体験した後だからこそ見えてきたことが、多くの参加者の言葉で共有されました。「やりたいことの言語化が必要」「ビスケットで試行錯誤したからこそAIでつくることができた」といった話や、「ビスケットの表現は言葉の最小単位」という意見も印象的でした。
ビスケットで自分のやりたいことを分解して、こだわってつくる体験があったことで、生成AIに伝えるときにも、自分が何をどう表現したいのかを見つめ直すことにつながっていたのかもしれません。「生成AIが作ったものに満足できず、何度もやり直した」という方もいましたが、作りたいもののイメージが明確にあるからなのかなと感じました。

アンケートから見えた「AIとの付き合い方」
体験や二度のディスカッションを経て、アンケートには参加者が考えた「AIとの付き合い方」が、それぞれの言葉で表れていました。
- 思うように生成してもらうには自分の試行錯誤が必要だった
- AIで作られたものの向こう側にいる人間や作り手の存在を意識するようになった
- 正しく動いているかを判断する人はやはり必要
- 苦手な部分にたくさん使おうと思った
- コンピュータは感情を自発的に生成できないからこそ、子どもも大人も、自分の道具として扱えるようにしたい
- こだわることこそ、人間が行う大切なこと
このような声からは、AIを使うことが、考えなくてよくなることではなく、むしろ自分の意図や判断を問い直すことにもつながった様子が感じられました。
おわりに
今回、会場に集まって一緒に手を動かし、作品を見合い、交流することの意味をあらためて感じました。生成AIを単純に使ってみるだけでなく、自分で「つくる」ことと、生成AIで「つくる」ことを行き来しながら試行錯誤したり考えたりすることで見えてくるものがある。そのことを、参加者のみなさんの言葉からも教えていただきました。
ご参加くださったみなさま、そして会場や運営面でご協力くださったみなさま、あらためてありがとうございました。今回はHRインスティテュート様に会場をご提供いただき、対面で講座を開催することができました。こうした場を実現できたことに、心より感謝申し上げます。また、小島さんには主催側の一員として、プログラムづくりやファシリテーションをともに担っていただきました。この場を一緒につくっていただいたことに、あらためて感謝しています。
今回の場で生まれた問いや気づきが、参加していただいたみなさまの日々の実践や、これからのAIとの付き合い方につながっていけばうれしく思います。
文・井上愉可里(デジタルポケット)
