Viscuitの仕様は子どもが作っている3(ひっかけドラッグ)

子どもが初めてタブレットを触るときは本当に面白い行動をします.たとえば,3歳ぐらいの子どもがビスケットで絵を描く画面で初めて絵を描いたとき,自分の指先を不思議そうに見ます.指先から何か絵の具が出ているのかと思うのでしょうか.なにもないとわかると,その次は手のひら全体を画面に押し付けます.これは手形を取ろうと思ったんでしょうね.今のタブレットだと同時に10箇所のタッチにまでしか反応しないので,画面には10個の点が打たれて終わりです.これをやられた時点で,タブレットって不自然なデバイスなんだということを痛感させられますね.

ビスケットのタブレットバージョンを初めて作ったのは2011年くらいです.Galaxy Tabです.これにビスケットを入れて,親しくさせていただいている児童館に行ってきました.

そこそこ,みんなが使えている感じだったのですが,ある子ども(たしか3年生くらい)が,イライラして声を出しました「ああ,全然つかめない」.他の子はちゃんと使えているのに,どういうことだろうと思ったら,絵を空振りしているんです.

GUIのマウスを使った操作では,絵をつかんで動かすとき,絵の真上までマウスポインターを移動させて,ボタンを押してひきずります.うまくつかめたときは,絵が持ち上がったような見え方になったりもしますね.ペンタブレットもほぼ同じです.ペンタブレットの場合は,箸でものをつかむような感じになります.

その操作に慣れてしまった大人は,なんの疑問ももたずに,タブレットでもまったく同じ操作をします.動かした絵の上で指を下ろして,そこからひきずります.2011年から8年近く経った今でも,ほとんどのタブレットのアプリはそう作られていると思います.

ところが,そんなマウスの事情を知らない子どもはどう使ったかというと,絵の上ではなく,動かしたい絵の向こう側に指を下ろします.そして絵を指で引っ掛けるような操作をしていたのでした.

普通のアプリの作り方をしていた場合,これは床をつかんだことになるので,空振りするか床がスクロールするエリアだったら一緒に動いてしまっていたと思います.

まさか,最初にそういう説明をしなければならないとは思っていなくて,なにも説明しなくてもみんな使えるだろうと思ってましたが,そうではありませんでした.たぶん,ちゃんと使えている子どもたちも最初の1回は空振りしたのかもしれません.でも,推理というかタブレットの世界の文法にすぐに順応して使えるようになったのだと思います.最近は小さい子供にスマホでゲームをさせる機会も増えてますから,空振りに出会うことは少ないかもしれませんね.

で,イライラした子どもですが,相当怒ってました.何回か成功するのですが,慌てるとまた空振りしたりしてました.

ここでも,その彼には申し訳ない気持ちになると同時に,なんとかそういう操作「指でひっかけてドラッグする」も組み込みました.今のビスケットにはこの「ひっかけドラッグ」が入っているので,空振りする子どもに出会うことはありません.

あと,今ではあまりみませんが,当時はステージ置かれたたくさんの絵を全部消したいとき手の側面を画面につけて,ザーッと払うような操作をした子がいました.これも恐るべき操作です.あと,絵をひきづっている最中に,反対の手の指をつかって画面をスクロールさせようとするとか.マウスとかペンという道具を途中に介している場合は思いつかないようなことが,直接手を使って良いとなると,とても豊かな発想で発明されています.

「ひっかけドラッグ」は子どもだけの話だろうと思われがちですが,僕はビスケットじゃないアプリを操作するときについ空振りしてしまいます.ひっかけドラッグに慣れてしまうと本当に使いやすいんですよね.

たとえば,風邪の感染のプログラムを作るときに,健康な人を大量にステージに置く必要があります.ひっかけドラッグだとものすごい速さでガンガンいれられます.そうじゃなければ慎重に指を絵の上に下ろさなきゃないですし,あと指で掴んだような視覚効果を使っているツールもあって,それだと指をタッチしてほんの少しだけ遅れてつかむのですよね.そんなインタフェースだと引きずる動作もワンテンポ遅れてしまい,ガンガン入れるなんてできないです.

あと,ビスケットが未就学児や特別支援のお子さんに使ってもらっているというのは,この辺がかなり大きいんじゃないかと思ってます.使う前にタブレットの正しい操作法をきちんと教えるのが本来の姿なのかもしれませんが,その時間というかそれ自体がストレスになってしまったり,それで集中力が途切れてしまったり,という可能性が0ではないわけです.アプリで解決できるものなら,こんな楽なことはないですよ.

最近,3歳児くらいの指先を見ていて思うのは,タブレットへの指の圧力が弱くて,引きずるときによく絵を落としてしまう,ということです.逆に強すぎると摩擦が大きすぎてタブレットごと動いてしまう.ちょうど良い圧力というのは3歳児には結構難しい操作のようです.弱い圧力なんかもプログラムを頑張れば,落としにくいように判定できるかもしれないですね.

あと,いまのビスケットで満足できていないのは絵の回転の操作です.iphoneで発明された2本指で回転とズームという操作はまったく自然ではないです.いまのビスケットの回転は絵の周囲に薄い円が表示されてそこをなぞることで回転させているのですが,これは本当にわかりにくいです.次のバージョンでこの表示を変えようと思っているのですが.子どもへはこっちの方がまだ教えやすかったですが,それでも完成ではないです.

子どもがよくやっている操作は指を絵の上でぐるぐる回すことですが,その操作は普通の絵の移動とは明らかに違うのでプログラムで判定することが可能かもしれませんね.

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする