Viscuitの仕様は子どもが作っている6(そのエネルギーはどこから来るのか)

これまで5回続けて書いてきましたが,どうして僕がそこまでのエネルギーというか情熱をかけてこんなことをやっているのか,という疑問を持たれたかもしれません.僕も何故なのかを頑張って言語化したいと思います.

考えてみると,僕も最初からそんなに「子どものことを」と考えていたわけではなかったみたいですね.たぶん何度かの不幸な事件をきっかけに変わっていったのでしょう.

何度も言ってますが,ソフトウェアを作るというのは,本当にどんな小さな部分でも全部作る人がきっちりと決めないといけません.子どもたちには朝顔の例で説明してますが.朝顔の葉っぱの形って複雑な形だけど,こういう形にしたいと思って水をあげたわけではなくて,水をあげたら勝手にああいう形に育って行くよね.でも,コンピュータは勝手には育たなくて,色,形,動きとどんな小さな部分でも人間が考えて作っているんだよ.

で,普通はどうやっているかというと,世の中にすでにあるアプリの真似をして作ると,だいたい失敗はないです.それにライブラリという便利なものが揃っていて,それを呼び出すとことで細かいところはライブラリがやってくれるんで,同じようなものが簡単につくれます.それに真似ておけば,他のアプリで使い方に慣れた人も混乱せずに使えますからね.

どう作って良いかわからないので,まずは自分の視点でみて,そんなにプログラムが複雑にならない程度でエイやっと決めて作ると思います.最初からあまり過剰な品質にはしない.ソフトウェアのコアになる重要な部分は真剣に考えますけど,あまり重要じゃない部分はまあエイやです.

で,不幸な事件が起こります.そういう事件はタブレットがあまり得意じゃないとか,初めて触ったというような子に限って起きます.よく起きるのは作品が消えたとか,アプリがフリーズしたとか.3で紹介した「ひっかけドラッグ」の子どももそうでした.

16年前の最初のビスケットはファイルを普通に保存するタイプでした.そうすると「同じ名前のファイルがあります.上書きしますか」というメッセージが出てくるんですが,子どもはそれを読まないので,こっちが「あっ」といっている瞬間に「OK」します.うっかり声が大きかったりすると,自分がやったことが大きな失敗だったと思って,しょんぼりしたり泣き出したり.

そもそも,上書き保存って,かなり危険な操作ですよね.前に書かれていたものが何かは全然わからずにそれを全くなかったことにしてしまうんですから.すごくいい作品ができて喜んでいて,時間が余ったのでもう1つ簡単なのを作って,それで,上書きして前のを消しちゃうとか.

「コンピュータを使うのは危険と隣り合わせだから,あなたが気をつけるように」とかって,できれば子どもに見せたくない部分ですよね.

そんなことを目の当たりにしたとき,それが他人が作ったソフトウェアだったら感じないであろう感情「僕がこの部分をこのように作ってさえいればこんな不幸は起きなかったのに.ごめんなさい」が沸き起こるわけです.ほんと,初期のころは誤ってばっかりでした(心の中で).

その中には,ネットが不安定とかOSやブラウザの変な挙動とか,必ずしもビスケットのせいじゃない部分もあったりするんですが,自分に責任のない変な挙動に対しても,ビスケットの中で工夫してそれを回避することができたりすると.逆にその解法があるのを知っててやらなかった,ということがまた申し訳ないに繋がる.

どんなタブレットを選ぶかまで含めて,子どもが触れる初めてのプログラミング体験に対する全責任を負っている感じです.どうやったって,自分ができない範囲の問題だったら仕方がないで済むんですけど,ちょっとでもできるんだったら,それをやらない自分が悪いになっちゃう.

でもそういう問題は無限にあるわけではないので,1つずつ解決してゆけば,少しずつ悲しいことは起きなくなるわけですね.いまはだいぶ減りました.本当の子ども向けのコンピュータはどうあるべきか,をずっと考えてきたってことなんでしょうね.

というわけで,この情熱は「自分が解決できる立場にいる」「子どもに悲しい思いをさせたくない」の2つからきているのでした.といっても自分では難解なパズルを解くのが楽しいのと同じで,全体的に楽しんでやってきたんですけどね.

そもそも,この一連のブログ投稿をどうしてやったかというと,「いろんなツールがあっていいし,みんな仲良くできないのか」ということを言われたからですが.そんな簡単に言える話ではないということをご理解いただければ.

あと,アプリの比較で「XXができる」が通用するのは大人の世界であって,子どものアプリだとまだ全体がそのレベルに行っていなくて,まずは不幸な・理不尽なことを1つずつ減らすことを優先すべきだと思ってます.もちろん僕が思っているだけで,そうじゃない比較を否定しているわけではありませんが.

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