これはWSDアドベントカレンダーのエントリーとして書いています。
WSDとは、青山学院大学を中心に年に2,3回開講している社会人向けの講座「ワークショップデザイナー育成プログラム」で、
いま38期をやっているところです。僕は2009年に受講しました。
どうしてワークショップを学ぼうと思ったかというと、「子供にプログラミングを教える」ときに、いわゆる学校的な教え方はちょっと違うかなと思ったからでした。いまでこそ、先生からの一方的な教育だけではなく、ワークショップっぽい教え方も学校にも入ってきましたけれど。2009年ごろに僕が持っていた「教育」のイメージは、知識を持っている講師が、知識の少ない受講者にその知識を伝達する、というものでした。
たしかに、いままでのプログラミングは、習得にとても時間がかかりますから、「効率よく教える」ことはとても重要です。講師からの一方的な知識伝達や、小テストといった教え方を工夫して、10時間かかることが5時間に短縮できるのであれば、その方がよいかもしれません。
一方、ビスケットは覚えなければならないことが少ないのが特徴です。ビスケットを教えるのに「効率よく教える」必要はないのです。その分いままで見過ごされてきた「何か」を考える余裕が生まれます。
「当事者意識を」
そこで私たちは、単にプログラミングを教えるだけでなく、「子供達が当事者意識をもつようになる」ことを目指しました。当事者意識というのはコンピュータのこれからの発展を「自分ごと」として捉えられるようになる、ということです。そんなもの一部の専門家だけがやればいいじゃないか、と思われるかもしれません。
コンピュータの性能は途轍もないスピードで向上し続けています。それに対して、コンピュータで何かを作るというアイデアはゆっくりとしか増えていません。増加を加速させるには、一部の偏った人たちだけではなく、全ての人たちからのアイデアが必要なのです。
「自信満々にさせる」
子供達が当事者意識を持つために私たちが気をつけているのが、「子供達を自信満々にさせる」ことです。教えてもらってうまくできるようになるのではなく、「自分で見つけ出してできるようになる」ようにしています。ヒントを小出しにして、ごく一部でも自分で考えて解答を見つけ出すように仕掛けます。
「知ってしまったら知らなかったときに戻れない」
これも私たちがとても大事にしている言葉です。「知らない」で試行錯誤している状態が一番幸せなのです。たとえば、「このようにメガネを作ると、絵がパクパクするよ」と教えちゃうのではなく、「2つの絵でパクパクさせるには、どのようにメガネを作ったら良いかな?」と考えさせます。メガネを1つで苦労している子には、「ヒントはメガネは一つじゃないかもね」と伝えます。そんな感じで少しでも自分で発見できる余地を残します。その発見が自信につながるのです。
「答えは自分の中にある」
これもプログラミングの大きな特徴の一つです。例えば、書道を習っているとき、上手な字の書き方は先生が知っていますから、先生が書いた見本を真似て、自分が書いた字を先生に直してもらいます。考えてみるとほとんどの「教育」がこのスタイルです。もちろんプログラミングでも、先生側に正解がある教え方をする場合もあるでしょう。
しかし、ビスケットの場合は、ほぼ自分の中に答えがあります。まず、どのように動かしたいかが最初にあって、そういう動きになるようにプログラムを作る。プログラムを動かしてみて、最初に思っていた動きに近づけるように、プログラムを修正してゆきます。最初に明確に答えが決まっていない場合もあります。漠然とした答えに対して、動かしているうちに自分の求めているものが少しずつ明確になっていき、プログラムが精密になっていきます。うまく環境を整えてあげれば、自分の中だけでどんどん成長する仕組みになっているということなんですね。
試行錯誤が高速に無料で何度もできるのも特徴です。料理も答えが自分の中にある例ですが、料理は1日に何度も試すことができません。作るためにお金もかかります。この試行錯誤のやりにくさが、先生が教えがちになる理由なのかもしれません。プログラミングだと試すのは数秒でその都度お金もかかりません。必要なのは根気と時間だけです。
ここで述べたこと、どの部分がWSDの講座で習った部分なのか、今となってはよくわかりません。しかし、WSDを受講して「どうあるのが理想か」を明確にできたことは確かです。自分の中に答えができたことで、その後はさまざまな状況でブレずに考えられるようになったのでしょう。