Viscuitの仕様は子どもが作っている4(色の選び方)

だいぶネタ切れになってきたので,これが最後くらいかな.子どもが作っているというには,ちょっと強引ですが,こだわりの部分です.

ビスケットの特徴の1つに,お絵かきの色選択ツールがあります.

僕もよく冗談で「これを作るのに100万かけました」と言ってるんですが.ビスケットを作ってから美術関係の友達が増えまして.彼らが大学でどういう勉強をしているのか知りたくて美大の通信教育課程に入って勉強したことがあるんです.卒業には到底至らなかったのですが,それでも工学部出身の人間には目から鱗な学びがいろいろとありました.100万円というのは3年間の学費のことです.

興味深い科目の中で,特に「色彩学」というのに惹かれまして.これは単に教科書を読んで,課題を4つくらい提出すればよいだけではあるんですが.なかなか楽しめました.美術教育って本当は理論とかあるはずなのに,あんまり教えてくれないんですよ(そのあたりの詳しい話は別に書きますが).そのなかで色彩学はめずらしく結構ちゃんと教科書に書いてあるんですね.で,僕のセンサーにひっかかったのが「トーン(色調)」という概念でした.

日本色彩研究所が開発したPCCS(日本色研配色体系)というので説明されているのですが.色は3つのパラメータで表せますよね.コンピュータだとRGBですけど,これはやりにくい.他にはHSVという色相,明度,彩度で表す方法もあります.こっちの方が使いやすいんですが,PCCSではさらにすすんで,明度と彩度を一緒にした「トーン」という概念を導入しました.色は,色相とトーンの2つの属性で表すということだそうです.

たとえば,絵を描くときに同じトーンを使って描くと,トーンがそろった絵になります.トーンで有名なのにパステルとかビビッドとかがありますね.ピンクとか水色とかで絵を描くとパステル調になります.

ビスケットの色選択はまさにそれでして,上の丸い部分で色相を,下の四角い部分で明度と彩度を指定します.トーンがそろった絵を描こうと思ったら,下の四角の部分を一度決めたら,それを動かさないようにして,上の色相だけを使って色を決めればよいのです.なので,パステル調の絵とかすごく描きやすい.

もう1つ便利な使い方が,ものの光の当たり方です.ものの色を色相で決めます.そのものに光が当たっている・影になっているところを表現する色は,色相を変えずに明度と彩度だけをいじって使って作ります.結構簡単に飛び出して見える立方体なんかが作れますよ.あと,マットな感じとか質感もいじれます.色相を変えないのが大事です.こういう色選択ツールってあんまり見ないんですよね.

ある,子ども向けアプリを開発しているチームと議論することがあって.どういう流れだったか,僕がその人たちに子ども向けアプリの開発の仕方を教えてもらうという感じだったのですが.そのチームのデザイナーさんに言われたのが,「子どもはこんなに沢山の色は選択できない.もっと色の数を少なくするべきだ」と言われました.僕はびっくりしましたね.だって,すでに何1000人の子どもがこれで何の問題もなく色を選んでいるのにですよ.でも,実際,多くの子ども向けアプリが40色とか色の数を制限しています.コンピュータは24ビット1600万色も出せるのに.

この話を親しくさせていただいている幼稚園の園長先生にしたところ,ビスケットの色がよいから使っているんで,もし40色だったらビスケットは採用してません,とおっしゃってました.ですよね.

よく子どもに聞かれるのが「茶色はないの?」とか「肌色はどこ?」とかです.肌色って今は言わないですが,クレヨンセットにはちゃんとその色は残ってます.僕が嫌いなのは,それらの色が大人が勝手に選んだ色だということですね.子どもは木とか人の顔の絵をよく描くからなんでしょうかね.

「茶色はないの?」と聞かれた時は「あるから探してごらん」といえば見つけてくれます.もし,先に見つけた子どもがいたら,その子が「オレンジ色の暗いやつ」って教えてくれます.この言い方って実は結構すごいんですよ.茶色がオレンジ色の仲間というのは大人でもあまり意識したことがないですよね.

僕はコンピュータが出せる全ての色1600万色を対等に扱うにはどうしたらよいかを考えてました.その結果がこれなんです.茶色という色のボタンがない代わりに「オレンジ色の暗いやつ」があります.オレンジ色の暗いやつがあるということは,同じように「赤の暗いやつ」「緑の暗いやつ」もあります.それらの色にも一応名前がついていると思いますが,あまり聞いたことないですよね.でも茶色と同じ立場にあるということなんです.逆に色が固定だったり,選べる色が偏ってしまうツールだと,全員の絵を並べたときに,色が偏ったり,厳密に同じ色が使われていたり(そんなこと自然界ではありえないじゃないですか),とても気持ち悪い感じになると思います.このあたりの工夫がビスケットランドが綺麗に見える理由の1つだと思います.

ビスケットで作品を作る時は,トーンを意識して作るとかっこよくなります.たとえば,使う部品や背景を全部,茶色の仲間(〜色の暗いやつ)で描いてみます.で,爆発の絵だけ明るい色で描くと,そこが光って見えます.

トーンをそろえるということを無理やり意識させなくても,同じトーンで絵を描いた方が色の選択が1ステップ少なくなるので,どうしてもそろってくるんじゃないでしょうかね.どうなんだろう.これまで,保存された作品は数万もあるけど,調べるのは簡単ですね.やってみようかな.

人間の表現活動の1つとしてプログラミングを捉えるという話は結構ありますが,ビスケットもこんな感じで表現することには相当こだわって作っています.おかげさまで図工の先生方には結構評判がよくて,とても嬉しいですね.

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