Viscuitの仕様は子どもが作っている5(子どもの作品が一番)

これも,ある子ども向けアプリを作っている人に言われたことなんですが,子ども向けのアプリは効果音とかアニメーションとか,とにかく色々と賑やかにすべき,なんだそうです.その人はそういう作り方が常識だというようなことも言ってました(直接ビスケットにではないですが,賑やかじゃないアプリに対して,子ども向けとしては素人の作り方だとまで言ってました).

たしかに,そういうアプリって結構みますよね.アプリを起動した時にアニメーションとか音とかがでて,いかにも楽しそうです.ボタンをタッチしたらワクワクするような効果音が出たり.

キッドピクスという子ども向けペイントツールがありました.僕が初めてマックの上でみた時には衝撃でしたね.1989年だそうです.いろんなスタンプがあったり,描いている時に音がでたり.面白いのは画面をまっさらに消す時に,ランダムでいろんな効果が現れて,音を鳴らしながら面白いアニメーションで画面を消して行きます.そんな頃から,子ども向けのアプリというのはとにかく楽しく飾る,という流れが始まったのでしょうね.文科省の「プログラミン」もいかにもその道のプロが作った感じの,賑やかな演出満載の作りですよね.

一方で,ビスケットは表現ツールというか画材です.クレヨンとかサインペンです.ここで一番大事なのは子どもが描いた作品ですよね.画材にとっては,どうすれば子どもにいい作品を作ってもらえるかが最大のポイントです.

もしかしたら,子どもを楽しませればいい作品を作ってもらえるのかもしれませんよね.赤いクレヨンは優しい音が流れて,青いクレヨンは爽快な音が流れて.そんなわけないでしょう.うるさいだけですよ.っていうか,色に大人が勝手に決めた感情を結びつけたらダメでしょ.

百歩譲って,効果があったとしてもですよ.部屋で一人で遊んでいるならまだしも,教室にみんなが集まっている時に音は出せません.他人の音が自分の作品に与える影響が,プラスの効果になるとは思えません.自分が出した音が自分の絵に与える影響とどっちが大きいかと考えると,トータルでいい効果なんてほとんど期待できません.

音だけじゃなくアニメーションもうるさいですよね.

我々はビスケットの標準的な指導法というのを開発しているのですが,そのネタのひとつに「画面の上で初めて見るアニメーションはなにか」というのがあります.

もう少し言うと,先生がプロジェクターでやり方を教える時,ささっとメガネをつくってしまって「こうやって,こうやると,ほら動くでしょ.ではやってみてください」と言うやり方は絶対にしません.そうではなく「こうやって,こうやると,どうなるでしょうか」とやって,最後の絵が動くギリギリのところで手を止めて見せません.絵が動くという感動は子どもが初めて自分のタブレットの上で見つけるような演出をしています.いままで動いていなかった絵が動いたのは,自分がつくったメガネが原因だ,ということですね.このように教えると,子どもたちの驚いたような「あっ,うごいたー」と言う声があちこちから聞こえてきます.

なので,最初からアプリがごちゃごちゃ動いたり,音がしたりなんていう演出は,ビスケットの教え方からすると逆効果でしかないのです.

我々が大事にしているのは「子どもの作品が一番目立つように」です.

ビスケットは起動画面こそ色が使われていますが,起動してしまうと,アプリ自身はほとんど色がついていません.ステージの背景色はこれから作ってもらう世界観に引き寄せるための色で,特に世界観を決めないときは薄い色に押さえてます.そのほかのボタンやメガネなどのツールは粘土のテクスチャを使って存在感は残してますが,色は使っていません.

このような色使いは,多くのブロック型のビジュアルプログラミング言語が色彩豊かな(悪く言うとケバケバしい)色のブロックを使っているのとは非常に対照的です.

絵が描けない子どものために,最初からいくつか絵を用意して欲しい,というご要望をいただくことも結構あるんですが.例によって,一番最初のビスケットにはそれは親切にいろんな絵が用意されてました.その結果,子供の作品がどれも似たようなものになってしまって,オリジナル感というか手作り感が全然なくなってしまったんですよね.僕自身がワークショップをやっていて,みんな同じような感じになるんで飽きちゃった.1つだけ子どもが描いた絵が混ざってるときも,他は全部上手い絵ですから,せっかく子どもが描いた絵が逆にみすぼらしく見えちゃって.

もちろん,長い時間をかけて作品を作る子どもは,用意された絵は無視して,全部自分で描くので.そういう子には絵が用意されようがあまり関係ないというか多分邪魔ですよね.それよりも我々が気を配らなければならないのは,初めてタブレットを触ってまだ15分しかたってない,という子です.そういう子たちからどうやって,その子の個性を引き出して,全員が自分の作品を愛おしくなれるように演出すればよいのでしょうか.

それが,静かめにデザインされたアプリと巧妙な教え方なんです.ビスケットで子どもたちが盛り上がるのは,こういった小さな改良を丁寧に積み重ねたからなんですよ.

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