小学校の算数で自分一人だけ孤立した話

1辺が1cmの正方形の対角線の長さを多数決で決めた話が話題になっていますが,僕の小学校のときの経験を話させてください.

くれぐれも僕はその事件を恨んでいませんし,その後も算数は嫌いならず,数学が大好きなコースに進みました.ひどい授業でも,算数は嫌いにならないよというメッセージでもありませんので,子供時代の理不尽な教育は無くすべきという立場は変わりありません.

習っていたのは三角形が作れる条件のところでした.3辺の長さが分かっている.2辺の長さとその辺どうしの角度が分かっている.1辺の長さとその両端の角度が分かっている.この3つの条件のどれかに当てはまると三角形を作ることができます.5年生くらいでしたかね.

僕はクラスでも算数が得意な方で,友達からは一目置かれるような存在でした.

先生がいろんな問題を出して,それに対して三角形を作れると思う人は手を挙げて,みたいな感じで授業が進んでゆきます.

その流れで先生が出した問題は3辺が2cm, 7cm, 9cmという問題でした.僕はすぐにわかって,「ははーん,これはひっかけ問題だな」と気が付きました.

ところが,たったいま3辺の長さが分かっている場合は三角形が作れるということを習ったばかりですから,クラスの僕以外が全員「作れる」に手を上げます.「作れない」は僕一人.

いまなら,辺の長さの公式
A + B > C
というやつに当てはまらないので(2 + 7 > 9 ではない)三角形は書けないとただちに説明できます.しかし,不等式は中学校で習いますから,小学校5年生はそんな説明は知りません.本来なら,そういうきわどい問題は小学生には避けるべきなのですが,なんかたまたま適当に選んだ数字がそうなってしまったのでしょうね.

ここからが面白かった.先生も含め全員が,算数が得意な僕がうっかり間違ったけれど意地をはってそれを認めていない,と思ったようです.みんなが順番に,なぜ三角形が作れるかということを僕に説明してくれます.僕の目の前で書いてくれた子もいました.たしかコンパスの線が数mm足りなくて交差しなかったのですが,それはコンパスの誤差であって誤差がなければ書けると言い張ります.
黒板に大きなコンパスを使って説明してくれた人もいました.「これが9cmだとして,これが7cmだとして...」.僕はすかさず「~として,という適当な長さを使わないで,きちんとした数字じゃないと」.それで,黒板ですから全部10倍してやってみます.90cmの線を引いて,半径が70cmの円と,半径が20cmの円を書いています.すると,なんと信じられないことに,すごく細長い三角形が書けてしまったのです.僕は直線状に並んで,みんなが気づいてくれると思ったのですが,逆に書けてしまった.

それでも首を縦に振らない意地っ張り?の僕に対して,僕の仲の良い友達は「ここまで原田がいうのであれば,なにかあるんだろう.僕は原田の言うことを信じるよ」.とてもありがたい言葉でしたが,信じるとかそういう話じゃないのだけど.みんなはどうしてわかってくれないんだろう.

僕は自分が間違っているとは全く思っていないので,周りの様子がある意味,滑稽に映っていました.それが自分が孤立してても,大丈夫だった理由のような気がします.

そのうちに,先生が怒りだしてきて「いいかげんにしろ.クラスで話し合って解決するまで,職員室に戻る」と言って,出て行ってしまいました.

その後,どうやって収まったのかよく覚えていません.職員室で先生が自分の間違えに気づいたのかもしれません.解決しないうちに,先生がもどってきて,うやむやのまま次の授業が始まったように思います.

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